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体験談(約 96 分で読了)

【評価が高め】世間でいうクリスマスイブに綺麗な娘を買った(12/13ページ目)

投稿:2011-12-01 21:00:00

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本文(12/13ページ目)

その他は、オタなりに僕を慰めてくれようと努力している文面。

もういいんだよ、オタ。

オタの気遣いがなによりも嬉しかった。

オタはレスの最後にこう付け加えてあった。

「もし罪悪感が残ってるなら嬢様の事だけ考えればいい。嬢様はもうフロッピィを俺達にチラつかせてはくれない。嬢様がお前の事を気にいってるならなおさらだ。どんな小さな事でもいいから何か残ってないのか?例えば嬢様のデートクラブの名詞とか。お前はそこへ電話したんだろう?でなけりゃ直接行って嬢様を選んだんじゃないのか?そこに何か残ってないのか?他の子を買って、嬢様の事をちょっと訊いてみるとか。バレたらさぞや悲しむだろうけどな」

クリスマスイブの夜。

僕はデートクラブの女の子を買った事がある。

Hはなしっていう条件だったけど、2人とも一瞬で意気投合して、僕らは不文律の一線をあっさり飛び越えた。

姫様がなぜ僕なんかを気に入ったのか、今となってはもうわからないけど、数時間後には僕らはホテルの部屋にいるほどの仲になった。

映画を見た後で姫様は僕に一枚のカードをくれた。

名詞っていうより電話番号とアドレスが書かれただけのインフォメーションカード。

薄っぺらい淡いカーキ色のマーメイド紙。

コピー機に手差しで突っこんだ手製で爪の先で黒い文字を引っ掻くとトナーが粉になって剥がれ落ちる。

このカードは僕の財布のカードホルダーに刺さったままになってた。

完全に忘れてしまってた。

すぐにカードに書かれた番号に電話してみたけど呼び出し音に時々空電が混ざるだけ。

誰も出る事はなかった。

日を改めても結果は同じ。

263 名前:70 ◆DyYEhjFjFU sage 投稿日:04/10/09(土) 23:33:32

どこかおかしい。

カードには店の名も書かれていない。

僕は姫様の正体を突き止めたいわけじゃなかった。

でも姫様の痕跡を追っていないと落ち着けなかった。

姫様は会いたくなったらここに電話してと言った。

これが店の名詞だと勝手に思いこんでたのは僕のほうじゃないのか。

どこかで稼働し続ける姫様のフロッピィ専用のPC。

そいつと同じで姫様もスタンドアロンじゃないのか。

でもさ。

ここで僕の推理はいつも頓挫する。

姫様はリッチなのになんで僕なんかと遊んでるんだろう。

オタは姫様が金持ちかどうかなんて、本当の所は分からないと言った。

姫様の影。

その世界の信用に成り立ってるのならその金は無いも同然かもしれないと言った。

ベッドに横になってると、思い出すのはあのチャットルームだった。

音楽系のBBSとチャットで構成されたかなりいいかげんな、どこかのクラブサイト。

何気にふらっと立ち寄って、すぐに出て行くつもりが、どうした事かそこに明け方まで滞在する事になった。

何人かの女の子と雑談して、馬鹿馬鹿しくなり出ていこうとした時、僕は風変わりなハンドルネームを見つけた。

名は

「窒息しそう」

メッセージは

「普通にお喋りしてくれるひと希望」

たったそれだけの文字がみょうにひっかかって、僕はログインした。

他の書きこみはかなり過激で

「今夜一緒にいてくれる男の子」

とか、あからさまに一夜の値段を表示してるものまであったと思う。

後で聞いた話によると、そこは風俗嬢が待ち合わせに使うサイトだったらしい。

クラブ主催に見せかけたのはパトロールの目を欺くためか。

いや、クラブ主催は本当かもしれないけど、そこの常連は風俗嬢とそのチラシ的な文字の羅列。

僕は知らずにそこへ迷いこんだ。

そこで見つけたのは、渋谷のネオンサインが遠のいて消えてしまうほど綺麗なお姫様だった。

無料だったし、3時間くらい話込んだかな。

気づいたら明るくなりはじめてて、バイバイする直前に僕らはクリスマスイブにデートの約束をした。

もちろん有料で。

姫様が捨てアドに画像を送信してきた時、僕は目を疑った。

嬉しいというより、からかわれたという失意に沈んだ。

会えないのかもな。

当日僕はのこのこ出かけて行き、そして姫様を見つけて驚喜した。

有料なんだぞ、と自分に言い聞かせた。

指一本触れられないんだぞ、と。

でも高揚した気分はそんな事じゃ収まらなかった。

テレクラの約束の成功率は2割にも満たないと聞いた事がある。

会った相手に満足したかって事になると、この数字はさらに急カーブを描いて低くなるんだろうな。

この数字が正確だとすると、僕は奇跡に遭遇した事になる。

仕事で打ち合わせがハネた後、会社に戻る前に1人でスターバックスに寄って、それからHMVとかタワーレコードを冷やかしにいく。

学生の頃は中古CD屋で粘って月50枚近く買いこむ事もあった。

何年かそんな事を繰り返すと、月に何百枚買おうが、1枚だけだろうが好きになる曲の絶対量に変化がない事に気づいた。

働きはじめると、僕の彷徨く場所はタワーレコードなんかの大型店舗に限られるようになった。

欲しい新譜は発売日から数日以内に買ってたから、冷やかしに行くっていうのは本当だ。

そんな時は買う事なんて滅多にない。

僕の部屋のCDの量は日に日に膨張する傾向にある。

買いこむ速度よりも早く。

ベッドの下やクロゼットや押し入れは本来入っていて当然のものが入っていない。

そこには、もう絶対に聴く事のないCDが整理されずに詰めこまれている。

今夜もその廃棄処分決定済みのCDの山の中から一枚を選んで再生する。

買った記憶すらない一枚。

初めて聴く音。

そうやって何夜過ごしただろうな。

姫様の声を間近に聞いていた事が現実的じゃなくなって、あの肌の感触とか、髪の毛の匂いとか、そういう欠片を思い出すのが難しくなってきた頃、姫様は僕に電話を寄越した。

場所は空港のカフェ。

背景音はなく、恐ろしく静かで姫様の声にはっきりと輪郭があって、僕はCDの再生をストップした。

「会いたいよ。ヒロ。今すぐ会いたいよ」

大急ぎで着替えて家を飛び出した。

飛行機の到着時間から考えても、姫様が連絡を寄越した時間はかなり遅かった。

質問はしない約束だし、不可解な行動はいまに始まった事じゃない。

ただ顔が見たかった。

待ち合わせ場所は恵比寿。

今夜はゆっくりしたいからホテルを予約してあると言った。

最初に姫様の口からそのホテルの名を聞いた時自分の耳を疑った。

どこかの公園かオープンカフェの名かと勘違いした。

超高級ホテル。

遠くから見た事しかない。

普段は滅多に着る事のない、それっぽいスーツを引っ張りだし、クリーニングから戻ってきてそのままになってたシャツを着て僕は駅へと走った。

駅前の商店街は賑やかで、いつも多分このくらい賑やかなんだろうけど、僕の目には鮮やかに彩色されてより鮮明に見えた。

露店のホロに下がったハロゲンランプ。

呼びこみのおっさんの声。

チャリの長い列と生鮮食材の臭い。

ホームで電車を待つ時間がもどかしかった。

急げ。

ホテルに到着してフロントで名を告げると、何だかやたらそれっぽい金属にルームナンバーの刻まれたタグ付きのキーを渡された。

先に部屋で待っててほしいという事だったけど、フロントのピカピカの黒の大理石の床を横切って入り口が見渡せるロビーのソファに腰を下ろした。

1時間近く待ったかな。

フロントに近づく見慣れた人影。

想像してたよりも手荷物は少ない。

銀色の髪留めが後ろ頭にくっついてた。

僕はすっと立ち上がってエレベータホールに向かう彼女の後を追った。

全く気づいていない。

エレベータが到着して乗りこむ時、僕は彼女の視界を避けて背後に回り込んだ。

目的のフロアのボタンを押す彼女。

広いエレベータの中は僕らだけだった。

「おかえり」

と僕は言った。

静かな恐怖に襲われて反射的に正面のドアにぶつかる彼女。

くるっと後ろをふり返った時目が合った。

その瞬間彼女の顔が綻んで、それから涙ぐんだような表情に変わった。

僕の首に腕を回す彼女。

彼女が泣きそうになっているのは再会できた喜びからだと思ってた。

彼女は僕にしがみついてこう言った。

「カナが帰ってこないよ」

ホテルの部屋は広くて、僕らはその広さをもてあました。

贅沢な調度品。

デカいベッド。

その全てが僕らには不釣り合いだった。

カーテンを開けると一枚の大きいガラスがあって、そこから渋谷の夜景が見渡せた。

渋谷の街は昼間みたいに明るくて、その光が部屋の壁に反射して、入り口のドアあたりに深い影を作ってる。

明かりを消したまま部屋の隅にまるまってその暗がりに腰を下ろす彼女。

僕はあの綺麗なライオンみたいな女の子を思い出してた。

しなやかな体。

俊敏そう。

どんな声だったかはもうわからない。

彼女は何も言わなかった。

ただ僕にしがみついて震えていた。

彼女の髪にぶらさがった銀色の髪飾り。

それはよく見ると安っぽい一枚のブリキのような金属で、インドの象の神様が切り絵みたいに刻まれてある。

きっとデリーあたりで拾った彼女の言う可愛いモノなんだろう。

彼女の髪を束にして何とかまとめてあるけど、髪留めとしては頼りない。

彼女が横になって寝返りをうてば折れて曲がってしまいそうだ。

僕の知らないインドの街。

オタが寄越した画像の数字に従って彼女は動いたんだろうか。

折れ曲がったデリーの夜の闇。

そこにひっかかってカナが帰ってこないって意味なんだろうか。

僕は何も訊かなかった。

しばらくして彼女はようやく、ただいまと言った。

凄く会いたかったとも言ってくれた。

彼女はバッグをガサガサと引っ掻き回して、綺麗に包装された万年筆でも入ってそうな長方形の箱と、色んな種類のタバコの詰め合わせを取り出してお土産だと言って僕に渡してくれた。

クラッカーみたいだったりチョコレートかあめ玉みたいな派手で可愛いパッケージ。

とてもタバコには見えない。

彼女は長方形の箱の方は、まだ開かないでほしいと言った。

開けるべき時が来るから、と言った。

僕は素直に頷いて、彼女の手を握る。

ベッドに誘ったのは僕からだった。

深夜近くに雨が降り出して、僕らはベッドを抜けだし雨に霞んでゆく渋谷の街をぼんやり眺めた。

その時だったかな彼女がおかしな事を言いだしたのは。

「ヒロってさ、映画とか好き?」

「うん。普通に好きかな」

「ストーカーって知ってる?怖い映画。観た?」

出し抜けに何だろうと、いぶかった。

そのタイトルから連想するのは普通犯罪のそれだけど、彼女がパッケージの写真を描写し始めた時に、それが何かわかった。

タルコフスキーのそれだ。

僕は頷いただけで詳しくは話さなかった。

不思議な映画だね、とだけ言った。

彼女がその映画について何か話したそうだったし、その内容が映画好きのもったいぶった感想なんかじゃない事は推察できる。

彼女は小さな指先でガラスをつつき、何か絵でも描くようにさっと滑らせた。

「雨」

と彼女は言った。

あの映画の中にも沢山の水が使われてる。

指先には沢山の水滴があった。

彼女はガラス越しにトントンと、流れ落ちる水滴を爪先でつついていた。

彼女はその映画をどこで観たんだろう。

もう古いし、それにかなりカルトだし、どう考えても彼女が楽しめるような心温まる物語じゃない。

ところが彼女の話を聞いていると、観たのは一度だけではなかったみたいだった。

その記憶は僕よりも鮮明で、彼女の話で思い出したシーンもあったくらいだ。

「どこで観たの?」

「インド」

ぽつっと彼女は言った。

「へぇ、劇場公開なんてしてるんだ。凄いな」

彼女は違うと首を振った。

「そうじゃないの。ビデオ機材と観客席を備えたバーみたいなのがあって、劇場公開の少ない海外作品ばかりをずっと流してる。インドの人ってね、映画が大好きなの。ヒロは驚くかもしれないけど、インドにはクラブだってあるしミニスカートの女の子だっている」

と言った。

「ストーカーっていう案内人がいて、2人のお客がいて物凄く危険なゾーンに入っていくでしょ。ゾーンのまわりには警官がいっぱい。軍隊だっけ?」

どっちかは忘れた。

「だね。入っていった人たちはまず帰ってこない。運がよければ何かを持ち帰れるんだけど」

「そう。皆帰ってはこないの。カナみたいに。皆死んじゃう」

そこまで話してようやく僕は気づいた。

彼女は案内人よって導かれるツアーの客人だ。

その危険な旅の参加者に自分をなぞらえようとしている。

観客の心境は複雑だけど、映画の内容は単純だ。

ゾーンって名付けられた場所、ブラックボックスがあって、そこは国が封鎖している。

そこが何なのかは誰にも分からない。

そこに忍びこんで生還したやつは財宝を山ほど手に入れている。

巨万の富。

だけどゾーンに無数に転がっている無惨な死に、見合うのかどうかは僕にはわからない。

彼女が回りくどいやり方で僕にそんな話をするのは何となく分かった。

きっとその映画をビールでも飲みながらたまたま観たんだろうな。

暇つぶしも兼ねて。

どこの誰とも知らないやつを待ちながら。

で、彼女は震えあがった。

ゾーンの観光客と自分を重ねあわせた。

いつかは自分もああなるんだと。

こんな話を聞かされてるのに僕はなぜか冷めていた。

多分あのフロッピィに触った夜から、何となく気づいてたんだろう。

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