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体験談(約 6 分で読了)

雪が舞い降りた夏…… 水泳部の同級生で女を知った私 2つの告白

投稿:2022-07-26 06:58:05

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つばめ◆JjZGaQI(兵庫県/20代)
前回の話

「雪」。フルネームは「片山雪(かたやまゆき)」。この名前を私は忘れる事がない。この同級生の女の子、雪についての思い出を本稿に記し、私見を述べたものである。出会いの話をするのに、雪なんて呼んで、馴れ馴れしいかも知れないが、後にそう呼ぶことになるので、本稿でも雪に統一する。また、これほどに美…

水色の、角が折り込まれた愛らしい便箋を開いたときの気持ちは、15年経った今まで忘れたことはない。

息を弾ませて、夕陽の差し込む家の自室にこもり、私は手紙を開いた。

すると私の目に、鉛筆で書かれた大きな文字が飛び込んできた。

水泳入ったときから好きです

高井OKなら言って

片山ゆきより!!

水色の便箋は、風鈴の挿絵があしらわれており、大人びた落ち着きののある意匠だった。

しかし、何度も消しゴムで消して書き直した跡があり、バランスも揃っていなくて、漢字は所々左右が反対向きになっていた。

「片山さん、外国の人なのか……」

そう私は結論付けた。そう思うと、確かに彼女は南の国の人みたいな顔立ちをしている。

当時も今も、私には普通というのは分からないが、ラブレターにしては、かなり個性的な類のものであったので、最初に戸惑いが来た。でも書かれている内容をもう一度読み返した瞬間、心が大きく脈打った。

私の頭の中に、知る限りの雪が次々と現れては消えた。

さっきお手紙をくれたときの雪、普段同じコースで泳いでいるときのキャップを被ってる姿の雪、背が低いのに一番胸がある雪、そして私しか知らない腋の下のこと……

そのような光景が頭の中に浮かんできて、すぐにあそこが硬くなった。

私は雪の体のことばかり思い浮かべていた。そして、普段横にいる雪の水着の中がどうなってるのか妄想していた。

翌朝、あまり寝られなかった私は学校に行ったものの、全くもって落ち着いていなかった。放課後に控えるイベントの事で頭が一杯だったからである。

放課後、この日からは泳がずに陸上の練習だった。とは言ってもこの日は走ることがメインだったので、各自自分のペースでグラウンドをランニングしていた。

私は、いい感じのペースで緩々走っている雪に近づいて、しれっと追い抜こうとしながら、

「片山さん、今日練習終わったら……」

他の人が聞いていないであろうタイミングを見計らって、雪に話しかけた。

「うん……昨日と同じね。」

これで、決行は放課後と決まったわけだ。

練習が終わり、戸締りを確実にしたあと、私は電気のついている女子更衣室の前にいた。昨日と同じように、他のやつは既に帰っている。

「片山さん。」

私が呼びかけると雪は

「あーちょっと待って!」

と返事をよこしてきた。

声の方向は更衣室に繋がってるシャワー室の方向だったような気がした。

「あーごめん、お待たせ……!うん……昨日の話やんね……」

雪のショートの黒髪は少し濡れていた。シャンプーの香りらしき柑橘系の香りがして、先程までシャワーを浴びていたとわかり興奮した。

「昨日は、ありがとう。本当は……こういうのって男から言わなあかんやろうけど……俺も、片山さんの事気にしてた。好きになってたと思う。」

私も何が何だか夢中だったので、自分の言ったことは覚えてないが、確かこう雪に話したと思う。

「え……あ……うちのこと……?え……好き……?高井も?」

雪は混乱したような雰囲気だった。思いがけなかったのだろうか。

「好きや。付き合って下さい。お手紙貰ったとき、むっちゃ嬉しかった。」

「待って……ちょっと……待ってほしい。」

雪は少し複雑な表情を浮かべていた。その理由を私は推し量ることが出来なかったので、

「え……何で?」と聞いた

「明日……空いてる?高井に話すことあって。家来てほしい。」

本当に急な展開だと思った。答えを聞いていないのに、家に行く事になるとは予想もしていなかった。

9月中頃の土曜日、13時を回ったあたりだったと記憶している。

「あ、こっちこっち!」

たばこ屋の前に集合すると約束していた雪は、私を手招きする。

私は自転車に乗った彼女についていった。

昔からの市街地の、路地の奥まったあたり、二階建ての長屋が7、8軒繋がっている一番奥が雪の家だった。

「誰も居てないから……」

女の子の家に上がるのは生まれて初めてだった。

雪は「ちょっと待っててな」と言って階段を降りて行った。

綺麗に整えられていた部屋を見回すと、勉強机と奥にはベッドがあり、水色の枕が目に入った。

それを目の当たりにした私は「これ、もしかしたら今日一緒に入るんかな」

などという極めて邪なことを妄想した。

階段を上がる足音がして、雪がお盆とお皿に小さな豚まんを載せて持ってきてくれ、それを2人で頂くことにした。

「ご馳走様でした。ほんで、片山さんの言ってた話って……?」

「うん……」

さっきとは明らかに異なる、空気の張り詰めるのを感じた。

ここから雪が私に伝えてくれた言葉たちは、今でも耳に残っており、多分一生掛かっても忘れられない。

「うちね……高井好き。ホンマ。でも、高井、うちのこと嫌なると思う……多分。」

「何で……?片山さん嫌いになる要素なんて一個もないやん。」

その時の私は、雪が言っていることの意味を感じ取れていなかった。雪がまた口を開く。

「高井……うちな……9組行ってるんよ。みんなと違う……高井、うちと仲良くしたら悪く言われる。いじめられると思う。でも……うち9組行きたくない。」

地面が揺れた、ぐるぐると回ったような感覚に襲われた。

9組とは、支援学級の呼び名だった。普通のクラスは1組から8組である。そのような頭の片隅にもなかった事実が、雪の口から告げられるとは思ってもみなかった。外国の人だから字が苦手なのでは無かった。

豚まんの味も、そのあとに想像していた邪な妄想も、どこか彼方に行ってしまった。それだけの事実が唐突に告げられた。

ああ、ぐるぐると地面が回り続けている。

「俺は……そうやな……驚いたけど、うん……話してくれて、ありがとう。とにかく、ひとまずこの事を知っても気持ちは変わらんから。大丈夫。」

そう捻り出した。驚きはしたものの、気持ちは同じだった事は嘘偽りない事実だったからだ。

「うち……うち……普通ちゃうから……」

雪から涙と嗚咽が溢れ始めた。

私は、その刹那に堪えられなくなり、雪の側に回って前から肩と頭を強く抱きしめた。こうすれば、少しでも安心するかと思ったのと、雪の大粒の涙をどうにかしたくて、咄嗟に手が伸びていた。

「ごめん……!片山さん……どうしたらいいか分からなくなって……」

「んっ……!」我に帰った私を、雪は強い力で抱きしめ返してきた。

堰を切ったように雪は泣くばかりだった。

いつまで抱きしめていたか分からない。

相当に長い時間そうしていたと思う。

「落ち着いた……落ちついた……大丈夫。うん。高井、お母さんみたい……」

と、ようやく雪は私に笑って見せた。

少し落ち着いたので、当時の私は状況を把握しようと試みた。

「片山さんは、何で9組に行くことになってるん?いや話したくなかったら話さなくても大丈夫やけど……」

見た目だけでいうと、日に焼けて見るからにスポーツをしている女子といった出立ちで、今もこうして特段の問題なしに話をできている雪と、9組の接点が見出せなかった。

すると雪は、手を伸ばして1冊のノートを私に手渡した。

ノートには小学生の頃にしたような漢字の書き取りが沢山書かれていた。

「こういうの、9組でやる。」

「漢字の練習……?」

「うん。うちは、字読むのと書くのあかんくて…ひらがな書けるようになったの6年生やった。あと数字分からんくなる……でも、英語は大丈夫。他の科目も大丈夫。普通の7組で授業受けてる。ずっと9組いるわけちゃうよ。」

「そうなんや……」

おぼろげながら、雪が9組の授業を受けている理由が分かってきた。

雪は日本語の文字と特定の数字の認識が生まれつき苦手で、それが理由で小学校から違うクラスで授業を受けているのだという。ただ、一見してそうだとは分からない。その点も彼女を苦しめているようだった。

だいぶ後になって、雪のそれにはディスレクシアと言う名が付いていると知ったのだが、当時はインターネットも今ほど普及しておらず、知る由もなかった。

「親が入れって、9組の山井先生と勝手に話して、水泳部に行く事になった。うち運動も苦手やし、泳ぐのは嫌なんよ。でも、高井一緒の2コースに居って、いつも優しかった。8月の大会の前くらいから、高井見てたら心臓どくんどくんするようになった。」

さっきの事実を知った上でも、雪の話に耳を傾けている私の気持ちは変わらなかった。誰かに悪く言われるなんて、所詮は中学の3年間だけだとも思えた。

「俺は、片山さんのことちゃんと知りたいな。知らんまま顔とか見た目だけで好きにはなりたくない。」

「ウチも知りたい。多分……恋してると思う。さっき、泣いてて、よく分からなかったから、もう一回……ぎゅってして欲しい……」

驚いた。

そして、今度は意識するようになって私は胸が高鳴った。

「うん。俺も、よく分からなかったから……したい……」

感覚を確かめるように、私は雪を正面から抱き寄せて、ショートカットの頭の後ろから、うなじと肩の辺りまでを撫でた。

ここで、そういや今日初めて、同い年の女の子の身体を触っているんだと実感した。

私の身体に柔らかいものが二つ当たっていた。背中がしっとりとしていた。そして、微かに甘い、女の子のいい香りがした。そんな事を突然に意識して、あんな事があった後なのに硬くなりはじめた。

「ここで、そんな事がバレたら嫌われる……」と隠すことに必死だった。

しかしこの時間が終わるのは唐突だった。

午後5時を告げるサイレンがでかく鳴ったからである。

「あ……そろそろ、親帰ってくる……」

「ホンマやな……こんな時間か……」

「ごめんね……」

「じゃあ、明日学校でまたね。」

「部活じゃ、いつも通りにしてほしい……でも、土日とか……電話とかで仲良くしたい……」

「俺もそう思ってる。これから、よろしくお願いします。」

「よろしくお願いします……なんか恥ずかしい……」

このような話を玄関でしてから、雪の母親が帰ってくる前に急いで家を後にした。

別れたあと、私は手や身体に残った雪の感触と残り香を感じながら、傾いた日の中を一人家路についていた。行きに待ち合わせたタバコ屋を過ぎたあたりで、告白の返事を聞いてなかったことに気がついた。ただ現にさっきのようなことをしているという事は恐らくOKなのだろう。そう自分に言い聞かせていた。

(続く)

この話の続き

間隔が空いてすみませんでした。続きを投稿します。(前回都道府県が間違っていたので修正)こうして、私(高井遥斗)と雪は同級生以上の関係になった。いつしか、「雪」#ブルー、「遥(はる)」#ピンクと名前で呼ぶようになった。幾つか約束をした。一つは「学校では必要最小限しか話をしな…

-終わり-
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話の感想(1件)

※コメントの上限:1万件

  • 1: 名無しさん [通報] [コメント禁止] [削除]
    ラブレター、青春って感じでいいですねぇ。文章も読みやすいので今後も楽しみにしてます

    0

    2022-07-28 03:27:45

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