体験談(約 15 分で読了)
【評価が高め】神様に見放され心折れそうな僕がおもわずもらった大きなプレゼント。
投稿:2020-07-08 22:50:58
更新:2020-07-09 15:40:32
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本文
これは私ことマドカ少年が中学2年の時の体験です。女系家族で育った私は、オンナだらけの中で育った環境からか、女性に対しての憧れや異性としての意識などは無縁でした。しかし、小学6年の時に高校生だった従姉妹に童貞を捧げて以来その従姉妹を意識しやがて初恋をすることとなります。しかし、…
翌朝目がさめると喉がガラガラです。昨晩、カラダが冷えたまま寝てしまったせいか、身体もだるく熱がありそうです。しかし、体温計がないため熱があるかどうかも分かりません。どうやら、ここ数日身体を酷使したうえ、昨晩カラダを冷やしてしまったため調子を崩してしまったようです。トイレに行こうとしても身体が重く、立…
マコトが北海道へ行ってしまってから1ヶ月。私は無事大学3年生になっていました。
大学3年生という時期は、誰しも将来のことを真剣に考えなくてはならない時期かと思います。しかしながら私は、未だ将来に何のビジョンも描けないまま悶々としていました。
あのマコトでさえ、何かのビジョンを持って北海道へ渡ったというのに。
もともと頭の良かった友人の織田ですが、当時株価上昇が止まらない大手通信会社を目指し、アキラと逢う時間を大幅に削ってまで、人が変わったように勉強に打ち込んでいます。
そんな姿を見て、心の中では焦っているものの、何一つ行動に移せない自分が歯がゆくてしかたありません。
そのような中でも、今までとおりバスガイド達との交流は続きました。しかし、その中でもパンク事件から入院騒動まで何かと関わりのある夏帆のアタックが強くなってきたような気がします。
更には、周りのバスガイド達も面白がってプッシュし、半ば心折れそうになりましたが、グッとこらえ、未だ夏帆には指一本触れていません。
しかし、そういう夏帆も春の観光シーズンが終わると、バスガイドが直接観光地に出向いて勉強するトライアルという研修が多くなり、泊りがけも多いことからなかなか連絡もつかない状態になってしまいました。
また、私はスタンドのバイトは継続しており、授業のない時は率先してバイトに行くようにしていました。それは、時間の空いた時に自分のハチロクをリフトに乗せて下から整備できる特典が付いているからでした。
そんなことから、趣味と実益を兼ねて楽しい時間というか気がまぎれる時間が過ぎて行きましたが、夏休みに入った頃私の元に北海道のマコトから手紙が届きました。
その手紙には、転校先の学校でも吹奏楽を続けていることや、先日出場した吹奏楽コンクールの地区大会では、創部以来初めて金賞を受賞したけどダメ金だったとか、充実した高校生活が綴られていました。
その中で、3年生で急に転校してきたマコトに優しく接してくれる部活のメンバーの事も書いてあり、マコトが担当しているユーフォニュームという楽器の一番新しいヤツを吹かせてもらっているという話の中で、
「でも、低音パートのみんなには言えないけど、4本ピストンのその楽器は私の指が短くって4番が押しにくいんだよね。古い3本ピストンでも良かったのに。」
などというチョット理解できない部分もありましたが、楽しそうで安心しました。
その後私は、「お盆にハチロクのエンジンを載せ換えるから帰って来い」という義父からの連絡を受け、お盆に帰省していました。
すると、以前義父がどこかの研究所から横流ししてもらったというそのエンジンはリビルドされすっかり組み上がっており、まるで新品のようです。
そして、エンジンを組み上げたガレージの脇には半2階の小洒落た一軒家が建っており、今では姉さんが住んでいます。姉さんは、現在警察の組織の何とかいう外部団体に勤務しており、そのガレージの中には義父さんが姉さんのために仕上げたスペシャルな「ブルドック」(シティーターボⅡ)というクルマが、ハチロクより相当太いタイヤを履かせた状態で収まっています。
基本的に背が高く丸いライトが可愛いクルマなのですが、それに似合わないブリスターフェンダーを備える何かやる気がみなぎる、まさしくブルドックでした。
そんなブルドックは、エンジン載せ替え作業の邪魔になるからということで外に出され、広々したガレージ内で作業が始まりました。
するとリビルドされたエンジンを載せ換える際に、当初一人で配線など外していた義父の元へ、なぜか中学校の同級生の理央やその父親と、経営しているショップの店長まで現れ、いつのまにか総勢5人で作業に取り掛かっていました。
朝から作業を始めて、昼にみんなで冷やし中華を食べた後、昔からガレージの奥にあって何に使うのか分からなかったジャッキで、ハチロクのエンジンが吊り上げられます。私は、何をやっていいのか分からずウロウロするばかりでしたが、ハチロクのエンジンルームががらんどうになりました。
昼食の際に理央の父さんから私の義父が、「ウチの理央がいろいろ世話になって申し訳ない。今まで、いろいろクルマのこと教えようとしたんだけど、イマイチだったんだよね。でも、エンちゃんの車に載るエンジンさわれせてもらうって喜んじゃって。それからウチの店で役に立つこと教えてもらっちゃって、感謝してます。」と言う会話が聞こえました。
それに対して義父は「役に立たないんだったらここまで触らせません。やっぱりお父さんに似て、筋がいいっていうかセンスがあるっていうか、とにかく呑み込みが早くって。最後はコッチがエンジン触らせてもらえないくらいでしたよ」と返していました。
半信半疑でしたが、これから載せられるこのエンジンは理央が組んだもののようです。
そして、リビルドされたエンジンを載せる際に、エンジンを吊り上げているジャッキを微妙に上げ下げしながら、まるでおもちゃで遊ぶように楽しんでいるようにしか見えない大人達と、汗だくになりながらエンジンを載せることができました。
作業が一段落した後、理央に「エンジン組んでくれてありがとう。大事に使うね。」と伝えると、
「本当に大変なのはこれから。今回吸気系から全部やってるからセッティングが出るまでが大変なの。まっ、楽しいから最後まで勉強するね。」と本当に楽しそうです。
そして、「アベちゃんとはどうなってる?」と尋ねると
「アッチのほうは相変わらず…。でも、ベロと指のテクニックは超一流になったよ。わたしも顎関節症になっちゃったけどね」とチョット理解できない部分がありましたが、ちょっとだけ安心しました。
その頃ガレージの外ではヒグラシが鳴き始め、夏の終わりを告げているかのようでした。
その後やはり、「セッティングがあるからしばらく預かるから」と義父に告げられ、代わりに義父の買ったばかりの白いレガシイRSというクルマで下宿に戻ってきました。このクルマは、ホイールとマフラーこそ変わってますが基本的にはノーマルで、信じられないくらい快適なクルマです。
でもこの時、帰り際に義父から告げられた言葉が引っかかっていました。
「エンジンって組んだ人の性格が出るから、キッチリ回るエンジンになると思うよ。楽しみにしててね。」という事でした。
エンジン組んだ人の性格?。理央の性格って?と考えましたが、理央のアッチ以外の性格はあまり覚えていなかったので、「ジャジャ馬」という事にして、自分の心に収めました。
下宿に帰ってきた翌日からまたバイトに復帰しました。この年は、異常気象でとにかく暑く何をやっても汗が噴き出します。
スタンド閉店後、夜に汗だくになりながら下宿に帰ると、夏休みで帰ってきたふたばに「この就職に大事な時に何やってんの?バカじゃないの」なんて言われながらも、何かに取り憑かれたかのように毎日バイト励みました。
ちなみにそのふたばは、流産騒動の時に助けてくれた武田という男とその後交際していました。その男はふたばと同級生で、これから就職活動という事でしたが、こちらの製鉄会社の実業団ラグビー部から誘いが来ているとのことです。
しかも、その彼は農家の三男坊ということもあって、将来婿入りしてくれるところまで話が進んでいるようでした。
でも、ふたばは私になぜか彼との裏話もあからさまに打ち明け、
「前に一度雰囲気が良くなった時、彼が迫ってきた時があってね。」
「その時されるがまま服脱がされたんだけど、いよいよブラのホック外そうとした時にね、社交辞令的にチョット嫌なふりをしたら、それから迫って来なくなっちゃったんだよね。」
「手なんて、アンタの倍くらい大きいんだよ。多分、アッチなんてアンタと勝負にならないと思うんだけどな〜」
「でも、全く、あんなに大きいのに。まったく意気地なしなんだからあの童貞は。」と言っていることもあり、その関係はまだプラトニックなようです。
その時「ふたばのほうから迫ればいいじゃん。ソレってふたばらしくないじゃん。」と伝えると、
「だって、軽く見られたくないでしょ。」との事でした。
しかも、その武田という男がやっているラクビーの練習や試合に、ふたばは時々応援に行っているようですが、その彼と一緒にいると、その巨大なカップルの迫力に周囲が圧倒されるとのことでした。
夏休みが終わった頃、北海道のマコトに手紙を書きました。それは、お盆に汗だくになってハチロクのエンジン載せ替えを義父とやったことや、その後ハチロクを義父がなかなか返してくれないこととか、灯油配達でバスガイドの女子寮に行ったけど、給油タンクが寮の浴室に隣接していて、給油作業中誰かがシャワーを浴びててすごく緊張したとか、そんなどうでもいい報告です。
するとマコトから、夏休みにやった定期演奏会でソロを吹かせてもらって凄く緊張した。という手紙とともに1枚の写真が添えられていました。
それは、定期演奏会の後会場で撮影された集合写真でした。シルバーにキラキラ光る楽器を抱えた姿で写るマコトは、最後に見送った時に比べ少し大人びた感じを受けました。
それは、嬉しい反面少し悲しい感じとなりました。なんか、親にでもなった感覚です。
この後暑かった夏は過ぎ去り、秋が深まった頃、テレビのニュースで「就職活動解禁」などと報道されていましたが、自分の就職活動が全く軌道に乗っておらず焦り始めていました。
そんな中、下宿の食堂で夕飯を食べていると廊下のピンク電話が鳴りました。
その時1年生が電話を取ると「エンちゃん先輩。女の人から電話です。」と声がかかりました。
「なんでいつも電話に出ると女の人って付け加えるかな?」と思いながら電話に出ると
「エンちゃん久しぶり。明日ヒマ?」と言ったのは、夏帆でした。
「明日は、午後から空いてるけど夕方からバイトだよ。」と伝えると
「じゃ、13時洗車場で。それじゃ」と言って一方的に電話が切れました。
翌日、約束通り洗車場へ向かうと、すでに黄色いレックスの洗車を終えた夏帆が吹上作業に入っていました。
平日の昼下がり、洗車場はガラガラで二人きりです。私がレックスの隣にレガシイを停めると、自販機で買ったコーヒーをそれぞれ片手に持ちベンチ腰掛けました。
すると、「エンちゃん。もしかしてハチロク壊しちゃった?」と聞いてきました。
私は、「ハチロク義父に取られた。エンジン載せ替えたら楽しいみたいで返してくれないんだ」と答えると夏帆は、
「へ〜、レガシイってスバルでしょ。私のレックスとお揃いだよ。なんかいいね。コレ」となぜか嬉しそうです。
そして、「ねえ、エンちゃん。マコちゃんから連絡あった?」と質問してきました。
「それが、全く無くってね。もう、僕たちダメなのかな?」「こっちの心配より夏帆ちゃんはどうよ。彼氏できたのかよ?」
と質問返しをすると
「バスガイドってさ…、休み不規則でしょ。一般大衆が休日って言ってる日は確実に仕事でしょ?。時間もバラバラだし、アッチ行ったり、コッチ行ったり、普通の人とはまず付き合えないのよね。付き合えるとしたら、アンタみたいな大学生くらいかな?」とため息交じりで答えます。
すると、今まで同じ方向を向いてベンチに腰掛けていた夏帆が急にこちら向きに座り直すと、急に真剣な顔になり
「エンちゃん。チョット相談があるんだけど。」とかしこまって話を始めました。
「実はさ。わたしすごく困ってるの。ここで相談してもどうにもならないことは分かってるんだけど…」
「相談ついでに、頼まれてくれないかな?」
私が「夏帆ちゃんの頼みとあらば、なんでも聞いちゃうよ」と、その真剣な眼差しとはかけ離れた答えをすると、
「わたしを振ってほしいの。」
「え?」
「何も言わず、ただ振ってほしいの」
「このモヤモヤにもう耐え切れなくって。チョットはチャンスあるかと思ってたんだけど、昨日それが叶わないってことが分かって。」
「あと半年。あと半年我慢すれば、アタックできると思っていたのに……。」
「チャンス?…昨日?…アタック?…」そこまで聞いた私は何のことかサッパリ理解できません。
そこで「夏帆ちゃん。僕、何のことか分からないんだけど…」と答えると
「ううん。分かんなくっていいの。今は…今はね。」
「実はさ、エンちゃん。ここからが本題。」
「わたしね。わたし、エンちゃんのことが好きなの。」
「ずっと前に、パンクでお世話になった時からずっと好きなの。」
「でもね、エンちゃんにはあんな可愛い彼女がいるってこと分かった瞬間諦めたの。」
「こりゃ叶わないって。だってあんなに可愛いんだもん。」
「私なんて、こんな浅黒くって、人よりいっぱいファンデーション使うんだよ。こんなオンナより彼女の方がいいって、誰が見ても勝負ついてるでしょ。」
と言いながら顔は涙でぐちゃぐちゃになっています。
そして夏帆が「だから…だから…」と言ったところで私は夏帆のカラダを抱き寄せ、「マコちゃん、目をチョットだけ目を反らせて」と心で呟きながら、プルプル震える薄ピンクの唇にキスをしました。
そのキスはやがてディープなものに変わり、昼下がりのお天道様の下、お互いを貪りあうようなものになってしまいました。そして、その長いキスが終わると
「夏帆ちゃんの気持ちはとっても嬉しい。僕も織田と同じように心に決めたひとがいなければ夏帆ちゃんに告白してたところだよ。」と、私は今の本当の気持ちを伝えました。そして、
「でも、ゴメン。本当にゴメンナサイ。今はマコちゃんが戻ってくるの待っている身なんで。」と、夏帆に頼まれたように夏帆を振りました。そして、
「でも、今の話の内容を少しだけ訂正したいんだけど…」と提案しました。
「夏帆ちゃん。自分では気づいていないと思うけど、オトコからすれば夏帆ちゃんてかなり可愛いんだよ。」
「顔が浅黒い?そんなの関係ないよ。だって可愛いいんだよ。夏帆ちゃんは…。分かってないな〜。」
と伝えると、顔を真っ赤にして夏帆は
「そんなに可愛いんだったら、ファーストキスだけじゃ無くって、処女だってもらってよ。責任とってよ。」と急に立ち上がり真剣なまなざしで私を睨みつけます。
これには参りました。もう、どうしていいか分かりません。
すると夏帆がもう一度キスをしてきて、「エンちゃん。困らせてゴメンね。彼女じゃ無くってもせめて友達でいてほしいの。ダメかな」と言った夏帆の表情がとても可愛く、今すぐにでも押し倒したい衝動を抑えつつ、
「それは出来ない相談だよ。こうなった以上は。」
「でも、親友にならなれるかも。いや、戦友かな?」と伝えると、夏帆は涙まみれの顔を大きく上下させました。
そして季節は冬となり、夏の暑さとは打って変わって大雪が降っています。
大雪が降るというニュースが流れるや否や、スタンドには沢山のタイヤ交換の客が押しかけ休む暇もありません。
企業訪問など行っていた時期と重なり、自分自身もとても忙しくマコトのことを考える暇もなく、気が紛れて悪くない気分です。
その後正月実家に帰ると、やっとハチロクを返してもらえることになりました。
義父は、まだまだ手元に置いておきたかったようですが、母さんから「アンタのレガシイ、ノーマルのままでしょ。可愛がってあげなくていいの?浮気しっぱなしじゃ離婚されちゃうよ。」と告げられ、渋々返してくれたというのが本当のところです。
そのハチロクは凄いことになっていました。もともとのエンジンは、基本的に排気系とカムシャフト交換とコンピューターの修正というハチロクのチューニングでは定番のものでしたが、今回は、メーカーがAE92という現行モデルの後期型用として試験していたエンジンです。
しかも、それを私の同級生の理央がリビルドしたというのです。恐らく、義父の指導の元作業助手的に携わったものと推測されますが、そのエンジンは元々試作機だった事もあり物凄いパワーを絞り出します。
まるで、車体の重量が感じられず、その甲高い排気音と相まってバイクのようです。しかも、「組んだ人の性格が出る」と言っていた義父の言葉で、私が勝手に「じゃじゃ馬」と想像していたエンジンフィールは、物凄い繊細かつスムーズで、安心してアクセルを開けられるエンジンであったことに驚きました。
そして3月、いよいよマコトをフェリーターミナルに送っていった日から1年が経ちました。未だにマコトが戻って来るどころか手紙すら来ません。
いよいよマコトを諦めなければならない最後通告を受けているような気がして、何かで気を紛らわさないと居ても立っても居られない状況となっています。行ってもどうなるわけでもありませんがフェリーターミナルにも行ってみましたが、もちろんマコトの姿はあるはずもありません。
神様は、私に微笑んでくれなかったのです。この時、これからは自分の将来だけを考え、マコトのことは出来るだけ考えないようにしようと心に誓いました。
そこで、まだ将来像が描けていない私は、気がまぎれるようにと、気になった会社に資料請求したり、精力的に会社訪問したりしていました。
そして4年生に進級した春、私は既に会社訪問だけでもらった内定5社。資料請求したら、資料とともに内定通知が届いた6社の内定を受けていました。一番ビックリしたのは、会社訪問後下宿に帰ったら、その本人よりも速く内定通知が届いていたというものでした。
しかし、この頃母さんから、「今後社会情勢がガラッと変わるから、給料は安いけど倒産の恐れのない公務員になるように」と言われていました。その母さんは数年前、今後の社会情勢を敏感に察し、当時営んでいた建設会社をたたんでしまった実績があります。
母さんいわく「だって、会社潰れちゃったら給料もらえなくなるんだよ。そしたら好きな趣味だって出来なくなるでしょ」との事でした。
実家から公務員試験を受けるように言われている事を学校の就活担当教授に話すと、「役場とかならまだしも、お前の目指すヤツはどうせ受からないから辞めとけ。おまえの内定リスト見ると、ほかから羨ましがられる会社もあるんだから…」と話も聞いてくれません。
しかも、学年担任の助教授からは、「お前といい、織田といい、なんでお前らいつもペアになって変わったことするんだよ。教授陣の中で、「学生番号の21と22のペア」ってことで、お前たちそれでも結構目立ってるんだぞ。」
「お前も、織田もこの大学で前例のないことやろうとしてるだぞ。今回ばかりは無謀なチャレンジって感じかするんだがな…。」とも助言を受けています。
それに対し私は「私も織田も身内みたいなもんなんで」と答えると、その教授は「?」という顔をしてました。
この時1次試験を突破した織田は、やはり目標を変えることなく自分の父親が務める会社の親会社に就職すべく、デートの時間を大幅に削って努力中でした。しかもその会社は誰しも知っている、未だ株価上昇が止まらないあの日本最大の通信会社です。
私は「公務員試験受けないと仕送りを止めるからね」と母さんから脅されたことから、その母さんの本気度を感じ取り、とりあえず願書だけは提出しました。
また、「どうせ受けるのなら」と、今まで考えたことすらなかった公務員試験の一般教養の部分だけでも一応勉強しようと、昨日一般教養の参考書だけを買いに行ったところです。
そんな中でも、教師という選択肢も捨ててなかった私は、あのふたばも受けている教職課程をマジメに受講していました。しかも、教育実習がオリエンテーリングの直後から2週間予定されています。
通常、教育実習は母校が受け入れるものでしたが、私は「傷害事件を起こした当事者」という事になっており、母校から受け入れ困難と通告されたため、通っている大学の付属校で教鞭を取る事になっています。それは、あのマコトの通っていた高校です。
しかも、なぜかあのふたばも同じ高校で実習することが決まっており、実習が始まれば「また」お互いに「先生」と呼び合う事になります。この時、マコトがあのふたばの後輩にあたるということを始めて知りました。何か波乱が起きなければいいのですが…
そんなことから、教育実習目前の私は学部のリーダー学生に選出され、毎年新入生に対して行われる春のオリエンテーリングに指導者として参加するため、大学の駐車場に来ていました。
すると、駐車場の奥で薄ピンク色を主体に赤と青でカラーリングされた大型観光バス5台が、いつも見るバスガイド達とは違う「新人のバスガイド」に誘導され、それぞれ動いていました。
ほとんどのガイドがホイッスルでバックの誘導をする中、一人だけ大きな声で「オーライ、オーライ」と誘導している新人ガイドがいます。
それは、どこかで聞いたことのある、バイト先のスタンドで聞いたあの澄んだマコトの声そのものです。しかも、遠くから見るその小ささもマコトそのものでした。私に心に、なぜか甘酸っぱい想い出みたいなものが蘇ります。
驚いた私が、「まさか?」と思い、その声の主のところへ行こうとしましたが、その新人ガイドは私の見覚えのある先輩ガイドから
「は・や・さ・かー」と呼ばれて、走ってどこかへ行ってしまいました。
結局は私の思い過ごしのようです。何かを期待してしまった自分の女々しさに惨めさを感じます。
私の持っている教職員用の名簿には、マコトの苗字である「工藤」の名字は見当たらず、先ほど呼ばれた「早坂」の苗字は5号車の添乗員として記載されていました。
私は、リーダー学生のチーフとして、1号車に広報のために写真部から引っ張ってきた部長の滝沢という男と同乗しました。
しかも、出発前に見覚えがあると思ったバスガイドはあの夏帆であり、その夏帆は新人の先輩として指導にあたってるようです。
その後バスは出発し、市街地を抜ける頃
「本日は、当バス会社をご利用いただきありがとうございます。本日ハンドルを握りますのは…」
「また、交通事情により急ブレーキや急ハンドルなど切る場合もございます…」
「最後に、本日と明日に渡り1号車を担当いたします小比類巻夏帆と申します。よろしくお願いいたします。」
という決まり切った説明を、いつもとは違う超営業ボイスで終わらせた夏帆は、ガイド用の小さな椅子にチョコンと座り、一番前の通路側に座っている私に向かって、まるで内緒話でもするかのように囁きます。
「エンちゃん。わたし、凄くやりづらいんだけど。どうにかならない?」と。
私は、「バス会社からアンケート渡されているんだけど、どうしよっかな?」と意地悪に言いました。
すると夏帆は、「休憩の時、エンちゃんに凄いプレゼントあげようと思ったんだけど、やめよっかな。」と、鬼の首でもとったかのような表情です。
私は、「前言撤回。ごめんなさい。」と両手を合わせて謝りました。
横でそのやり取りを見ていた写真部長は、「風谷って、見かけによらず女性関係派手だって有名だよね。バスガイドに知り合いいるなんてみんなが知ったら殺人事件に発展しそうだ。」と、掛けている銀縁メガネを人差し指であげながら囁きます。
そして私が「小比類巻さん。そのプレゼントって?」と聞くと
「焦んないで。楽しみは取っておくもんだって。でも、ちびっちゃうかもしれないから、おしっこは先にしておいてね。」とだけ言って、バスガイドの営業スマイルに戻り、なにかの説明を始めました。
私は、そのプレゼントって何なのか、気になって気になって説明なんか耳に入りません。
途中、交差点で停車していたバスが青信号で発進しようとした際エンストしてしまい、運転席から「ピー」という警告音が鳴った時、「あっ、お湯が湧いたようですね。」とごまかしたところだけしか耳に入りませんでした。
その後バスは2時間ほど走り続け休憩場所に到着しました。バス5台分のトイレ休憩と景勝地の見学を兼ねて、30分ほど時間が確保されています。
バスから降りると、私は夏帆に人気のないバスの後ろで待っているように言われ、更に後ろを向いて目を瞑るように指示されました。
すると、私の後ろで、夏帆と新人ガイドとの「早坂どうした?」「学生に取り囲まれているみたいで身動き取れません」という会話がかすかに聞こえます。
すると、「仕方ないな〜、わたしが引っ張ってくるからちょっと待たせておいて。」と言って、足音がだんだん小さくなりました。
すると「夏帆先輩がああ言っています。怒らすと怖いのでじっとしてください。」とそばにいた新人ガイドが言います。
すると、「おまたせ〜」と夏帆が戻ってきました。
そして、「ほら、早坂シャンっとして。」と言った直後「エンちゃんいいよ」と声がかかりました。
振り返ると、そこにはバスガイドが4人立っています。それは、夏帆と新人ガイド達でした。
その夏帆が「自己紹介!」と号令をかけ、向かって左端の夏帆自ら「1号車の小比類巻夏帆です」「2号車の山下結衣です」「3号車の村上恵子です」「4号車の小笠原洋子です」と、4人全員の自己紹介が終わったかと思うと、
その最後に小笠原と名乗ったガイドの後ろからチョコンと右側に飛び出し「5号車の早坂真です」と、自己紹介したのは、まぎれもないあのマコトでした。
私があっけにとられ、なんでマコちゃんがその制服?なんで早坂なの?と思いましたが、その早坂と名乗るマコトが、
「エンちゃん。ただいま。わたし、母さんの再婚で早坂になっちゃったけど、チョット遅くなっちゃたけど約束のとおり1年で戻って来たよ。」と言いながら走ってきて私に抱きつきました。
私は「おかえり。マコちゃん絶対帰ってくると思ってずっと待ってた」と答えるのが精一杯で私は号泣です。それ以上なんて言葉を掛けていいかもわかりません。
「ヤッパリ神様は見ていてくれました。ジッと耐え忍んでマコトを待ち続けたこの1年を。」
でも、神様は見逃してくれませんでした。待っていた1年の間にちょっとだけ夏帆とはありました。その分期間が加算されたようです。
すると非情にも、ガイドの先生である夏帆が「休憩時間おわり。募る話はあと、あと。持ち場に戻る!」と、マコトを引き剥がし仕事に戻りました。
バスが再び発車した時、私は夏帆に尋ねました。
「なんで教えてくれなかったの?。この前も、夏帆ちゃんのレックス、ワックス掛けてあげたよね。なんで、その時黙ってたの?」と。
すると、「だから言ったでしょ。楽しみは取っておくもんだって。」と営業スマイルで返されてしまいました。
更に隣でそのやり取りを見ていた写真部長は、「さっきの感動瞬間。これにバッチリ納めたから」と言ったその手には、大きな一眼レフカメラが握られていました。(終)
わたしは今、北海道の苫小牧港に向かうフェリーの甲板にいます。そこから見下ろすと、フェリーを係留するための太いロープが何人かの作業員によって外されるのが見えます。その後のほうからエンちゃんが走って来ました。そして、エンちゃんは岸壁のギリギリまで近づいて大きく手を振っています。わたしが、楽器を吹くために…
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