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投稿:2016-07-02(土)13:33

震災の後、家に帰れない秘書のお姉さんがうちにお泊りして

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本文
森本さん(20代)からの投稿

震災の後、ボクたちは自分たちの家を目指し、ひたすら歩いていた。

交通は麻痺し、通信手段も遮断されていて、できることと言えば自分の足で歩くことぐらいだった。

そのとき、ボクは会社に入って二年目で、専門が化学系だったことからラボに配属されていた。

ガタガタとテーブルの上のフラスコやビーカーが揺れ始め、次の瞬間には大きな揺れが襲ってきた。

同期の佐倉がテーブルの下に潜り込み、声も出せずにいた。

目が合うと彼女は手招きをして、ボクにも下に潜り込むようメガネの奥の少し怯えた目が告げていた。

何かが床に落ちて、ガラスの割れる音がしたかと思うと、どこかで女性社員の悲鳴のような声が聞こえた。

ボクも慌ててテーブルの下に潜り込んだ。

防災訓練は受けていたのに、結局それ以外のことは何もできなかった。

ヘルメットがどこかにあるはずなのに、どこにあるのかわからなかった。

揺れが漸く収まって、テーブルの下から這い出ると、研究室の中は荒れていた。

本棚からは、資料や本が床に落ちて散らばっていた。

塗料と混ぜて使う薬物の入ったビンだけは、扉のついたガラスケースに収められてのがせめてもの幸いだった。

「凄かったね」

佐倉がテーブルの下から這い出て来ながら言った。

ボクは、それに頷くことしかできなかった。

「おい、外へ出るぞ」

所長の誘導の下、ボクたちは階段を使って地上階に降り立つと、ラボのビルを出て駐車場へと集合した。

「怪我人はいないか?」

先輩たちが点呼を取り始め、ボクと佐倉は顔を見合わせるしかなかった。

幸いにも、怪我をした人はいなくって、ボクたちはホッと胸を撫で下ろした。

携帯を取り出して、情報を集めようとしたけれど、回線が混雑しているのか、ネットには繋がらなかった。

「森本くん、ネット繋がった?」

佐倉の問いに、ボクは力なく首を横に振った。

顔を上げるとラボのお偉いさんたちが集まって、何かを話し合っている。

情報もないままに、時間だけが過ぎていく。

やがて、お偉いさんたちの中の一人が、駐車場に集まった社員に向かってこう告げた。

「本日は、これで業務終了とします」

別の人が続けて言った。

「うちに帰りたい人は、上司に断ってから会社を出るようにしてください」

陽が落ちるまでには、まだ時間があった。

研究所に留まるか、うちに帰るか、ボクは迷っていた。

明るいうちには無理だとしても、歩いてでも今日中には家にたどり着けるかもしれない。

「佐倉さんはどうする?」

聞いてみると、佐倉はきっぱりとボクにこう言った。

「私、本社に行ってみる」

「えっ?電車が動いているかどうかもわからないのに?」

おそらく街は混乱していて、タクシーもきっと拾えないだろう。

それでも佐倉は言った。

「うん、行くだけ、行ってみる」

佐倉には、本社に好きな人がいると、誰かから聞いたことがあった。

こんなとき、自分には心配する相手がいないのは、何だか寂しい気がした。

佐倉がちょっと羨ましかった。

「森本くんは、どうするの?」

どうしようか迷ったが、ボクは漸く決断し、それを告げた。

「ボクは、うちに帰るよ」

「そう。それじゃぁ、お互い、気をつけてね」

「うん、それじゃ」

門を出ると、佐倉は本社へと続く大通りに向かって小走りで駆け出して行った。

白衣姿の佐倉は、裾が棚引いていて、何だか映画のワンシーンのようだった。

余震が続いていて、研究所のビルには戻らないように言われている。

だから、ボクたちは白衣姿のまま、それぞれの目的地へと向かうことになった。

ボクは、佐倉と反対の方角へと歩き出したが、駅へ向かう途中で、定期入れを持っていないことに気がついた。

財布もカバンの中に入れたままだった。

取りに戻ろうかとも考えたが直ぐに諦めた。

戻ってもどうせビルには入れない。

家の鍵と小銭入れだけはズボンのポケットに入っていたので、そのまま駅へと向かうことにした。

果たして、駅は人ごみでごった返していた。

電車の運行は全て止まっていて、駅員さんから状況を聞きだそうとたくさんの人が詰め掛けていた。

そのときボクは、人ごみの中に、どこかで見かけたことのある後姿を見かけた。

「田之倉さん?」

ボクの声に振り向いた女性は、紛れもなく、秘書の田之倉涼子さんだった。

「社長になると、あんな綺麗な人が秘書についてくれるんだなぁ」

入社式の後で、同期の連中とそんな会話を交わしたのを思い出した。

二十代後半だと噂で聞いたことがあったが、ボクと同じか、精々ひとつかふたつ違いにしか見えない綺麗な人だった。

「森本くん・・・」

田之倉さんが大きな目を見開いて驚いた表情をして見せて言った。

けれどもその大きな瞳は、直ぐにいつもの優しい目に戻っていた。

そんなことよりも、田之倉さんが、ボクなんかの名前を覚えていてくれたことがちょっと驚きだった。

けれども、そのような話をしている状況ではなかった。

「田之倉さんが、どうしてこんなところに?」

尋ねると、田之倉さんは事情を説明してくれた。

「社長のお使いで、ラボの所長のところに来ていたの」

ボクはそれに頷いた。

「ラボを出たところで、地震に遭ってしまって・・・」

事情は分かったが、だからといって何かをしてあげられるわけでもなかった。

顔を見合わせていても電車が動き出すわけでもなく、ボクたちは途方にくれた。

暫く様子を伺っていたけれど、電車が動き出す気配は一向になくて、ボクは決断のときを迫られた。

「ボクは、歩いて帰ろうと思いますけど、田之倉さんはどうされます?」

「私のうちは、歩いて帰れる距離ではないの。このまま待ってみるわ」

普段なら、田之倉さんと一緒にいたいと思うところだろうが、そんな余裕はなかった。

「そうですか。では、お気をつけて」

「森本くんも気をつけてね」

胸の前で小さく手を振る田之倉さんに見送られて、ボクはその場を後にした。

けれども、五分ほど歩いたところで、ボクの足は田之倉さんのもとへと引き返していた。

「田之倉さん!」

ボクが戻ってきたのを見て、田之倉さんは少し驚いていた。

でもすぐに、懐かしい人にでも再会したような優しい表情をしてくれた。

「どれだけ時間がかかるか分かりませんけど、よかったら一緒に来ませんか」

憧れの先輩と、こんなところで巡り合ったのも何かの縁だと思って、ボクは思い切ってそう言ってみた。

田之倉さんは、少し考えていたみたいだった。

けれども、すぐに頷くとこう言った。

「そうね。このまま待っていても仕方がないわね」

ボクは田之倉さんの決断を促すように頷いた。

「方角も一緒だから、ご一緒させてもらっていいかしら」

その返事を聞いて、ボクは心の中で自分の勇気を称えた。

ボクの白衣姿に対して、田之倉さんは上下とも黒のスーツ姿だった。

少し高めの黒いヒールを履いていたので、歩きにくそうだった。

けれども、靴を売っているお店など見当たらず、気遣ってあげる余裕もなくて、そのまま歩き出した。

あったとしても、買うお金は持っていなかったのだけれど。

歩きながら、ボクと田之倉さん少しずつ話をし始めた。

最初は地震の話だったけれど、線路沿いに何時間も歩いているうちに、田之倉さんは自分のことも話してくれるようになった。

「私には、妹がいるの」

当然ながら、初めて聞いた話だった。

「森本くんは?」

「ボクは一人っ子です」

「そう。彼女は?連絡がつかなくて心配じゃない?」

「そんな人いませんよ」

そう言うと、田之倉さんは、笑みが零れるのを堪えるように前歯で下唇を噛むような表情をして見せた。

そんな気がした。

けれども、ボクの思い過ごしかもしれない。

何といっても、普通の状況ではないのだから。

「田之倉さんは?」

聞き返してみると、田之倉さんの返事も同じだった。

「私、モテないから」

「そんなこと、ないでしょう?」

そう言うと田之倉さんは少し自嘲気味にこう言った。

「こういうお仕事をしているとね、誰も寄り付かないの」

「そうなんですか?」

「ヘタなことをして、社長に睨まれたら終わりだし・・・」

確かにそうだと思った。

「社長秘書なんて、肩書だけで虫よけスプレーを持って歩いているようなもんなんだから」

それを聞いたボクは、思わず笑ってしまった。

すると、田之倉さんもつられるようにして笑った。

「・・・それに、朝早くて夜も遅いから、出会いなんかなくて・・・」

スレンダーな体型がモデルみたいで、肌が白く、アーモンドアイの美人だから、彼氏がいて当然だと思っていたのに、意外だった。

田之倉さんの歩くペースに合わせながら、ボクは自分の歩調を合わせて歩き続けた。

話をしているうちに少しだけ心の余裕も出てきた。

けれども道のりは遠く、陽が落ちても半分くらいのところにまでしか来ていなかった。

その上に、腹が減ってきた。

「何か食べましょうか」

通りがかったコンビニに入ってみたものの、食料は何も残っていなかった。

品物を補給する物流も止まってしまっているのだろう。

売り物のないコンビニを見るのは初めてだった。

「何もありませんね」

顔を見合わせて空しく笑うしかなかった。

お店の人に文句を言うわけにもいかず、ボクたちは力なく店を出ると再び歩き始めた。

そんな時に開いている食べ物屋さんは、一軒もなかった。

途中、売り切れランプが並んでいる中で、あまりおいしくなさそうなジュースのランプがひとつだけ「販売中」になっている自販機を見つけた。

ボクは小銭入れから百円玉と十円玉を取り出して、投入口に滑り込ませた。

ボタンを押すと、ゴトンと音がしてペットボトルのジュースが出てきた。

同時に、唯一残っていた「販売中」のランプが「売り切れ」に切り変わった。

田之倉さんは足が痛そうだったので、ボクたちは公園のベンチに座って少し休憩をとることにした。

「何も無いよりましですよね」

そう言って田之倉さんにペットボトルを差し出した。

「私は後でいいから、森本くん、先に飲んで」

お互いに譲り合っていたのだけれど、ボクが折れて先に飲ませてもらった。

飲み口に唇が当たらないように気をつけた。

最後に残っていた一本なだけあって、そのジュースは不味かったが、喉の渇きを癒すことはできた。

三分の一ほどを飲んだところで、田之倉さんに差し出すと、田之倉さんは白い喉を見せてゴクゴクとジュースを飲んだ。

田之倉さんの唇が飲み口に当たっているのをボクは横目で見ていた。

「ありがとう。生き返ったわね」

ペットボトルをボクに返しながら言う田之倉さんは、少し元気を取り戻したようだった。

「もういいんですか?」

頷く田之倉さんを見て、ボクはペットボトルに口をつけると残りのジュースを飲み干した。

「間接キスだ・・・」

我ながら、子供じみた発想だと思ったが、それがその時の正直な気持ちだった。

悲惨な状況の中、一服の清涼剤とは、将にそういうことを言うのだろう。

お蔭で気力が少し回復し、ボクたちはベンチから腰を上げた。

しかし、ふと気がつくと、田之倉さんの表情は再び曇っていた。

「足が痛いんですか?」

尋ねると、田之倉さんは辛い表情を誤魔化すように首を横に振ると、無理に笑って見せた。

「靴を脱いでみてもらえますか」

再び田之倉さんをベンチに座らせると、田之倉さんは素直にヒールから足を抜いて見せた。

辺りが暗くなっていたのと黒いストッキングで判り難かったが、田之倉さんの足は、爪先にも踵のところにも血が滲んでいるようだった。

「これじゃ、痛いですよね」

「ううん、大丈夫」

無理に笑って見せる田之倉さんが不憫だった。

直感的に、その足で歩き続けるのは無理だとも思った。

けれどもこのままでは、公園で野宿になってしまう。

田之倉さんを誘った以上、ボクは何とかしなければと焦っていた。

田之倉さんをベンチに残して、ボクは公園を出た。

通りかかった車を止めて、ボクのうちの近くまで乗せてもらえないかと、頼みこんだ。

普段のボクなら、そんなころはできなかっただろう。

それくらいボクは切羽詰まっていて、必死だった。

「うちの近くまで乗せて言ってくれるそうです」

ベンチに座ったままの田之倉さんのところに戻ってそう言うと、田之倉さんは驚いていた。

「森本くん、勇気あるのね」

「ハハハ、何も考えて無かったです」

田之倉さんに褒められて、ボクはちょっとだけテンションが上がった。

通りかかったのは、その辺りに住んでいるというおばちゃんで、普段なら見知らぬ人を乗せてはくれないだろう。

ラッキー以外の何ものでもなかった。

それに、おばちゃんは自分たちに身に降りかかっている惨事を誰かと話したかったのかもしれない。

おばちゃんは饒舌で、ボクたちが車に乗り込むと、目的地に到着するまで、地震の時の模様を一人でしゃべっていた。

車を降りる際に、田之倉さんは千円札を何枚か取り出したティッシュペーパーに包むと、固辞するおばちゃんに渡し、連絡先を聞いていた。

秘書らしい気配りに感心している間に、気がつくと車はボクたちを置いて走り去っていた。

田之倉さんは、最初、自分のうちに帰ると言っていた。

「ここまで、ありがとう」

「田之倉さん、その足では無理ですよ」

「でも・・・」

「それに、こんな街中で遭難でもしたら、洒落にならないですよ」

「遭難って・・・」

ボクの言葉に笑ってみせると、田之倉さんは少し考えた末、うちに来るといってくれた。

「人畜無害ですから」

そう言って、ボクは田之倉さんに背を向けるとしゃがみ込んだ。

「田之倉さん、もう少しですけど、乗ってください」

「大丈夫よ」

田之倉さんは、そうは言ったものの、歩き始めるとやはり痛かったらしく、結局ボクにおんぶされることに同意した。

田之倉さんの身体はとても軽かった。

お尻や太ももにできるだけ手が触れないように、腰の後ろで手を組むようにして、ボクのアパートまで田之倉さんをおぶって歩いた。

その一方で、背中に当たる微かに柔らかい膨らみを感じると、不埒なボクは背中に全神経を集中させていた。

エレベーターは止まったままだったけれど、ボクのうちは三階だったのがせめてもの救いだった。

体力に自信のないボクが田之倉さんを背中に負って階段を上がるのは、それが限界だったからだ。

うちについてみると、思っていたほど家の中は、散らかってはいなかった。

水道やガスも通っていたし、電気も点いた。

夜の十時を回っていたので、ボクは早速お風呂にお湯を溜め始めると、台所に戻って何か食べるものが無いか探した。

インスタントラーメンの袋がふたつだけ残っているのを見つけた。

鍋に水を張って火にかけると、田之倉さんはソファベッドに座ってテレビのニュースを見ていた。

「随分ひどいことになっているみたい・・・」

テレビに視線を向けたまま、田之倉さんが言った。

そこには、日本を襲った惨事を伝える映像が、繰り返し流されていた。

「卵でも入れようかと思ったんですけど、停電していたかもしれないので」

ボクは田之倉さんの分だけラーメンを丼に取り分けて、自分は鍋のまま啜り始めた。

田之倉さんは首だけでボクに会釈をすると、自分も割り箸を割って、麺を一口すすった。

「美味しい!」

「きっとお腹が減っているからですよ」

「ううん、インスタントラーメンでも作る人によって味が違うもの」

「田之倉さんがインスタントラーメンを食べることなんてあるんですか」

「あるに決まっているでしょう。私は庶民よ、庶民」

そう言って、頬を膨らませて怒ったふりをする田之倉さんの顔は何だか可愛らしかった。

ラーメンを啜る田之倉さんの姿なんて、こんなことでもなければ絶対に見られないと思った。

気づかれないように、ボクは田之倉さんの方をチラチラと盗み見ていた。

それに、インスタントラーメンの作り方についても、麺をお湯に投入するタイミングと茹でる時間、スープの素を入れるタイミングによって美味しさが全く違うと思っていた。

そのことを、田之倉さんがわかってくれたような気がして嬉しかった。

家に着いてからも何度か余震が続き、落ち着かなかった。

そのうち、風呂が沸いたという合図の音が聞こえた。

「田之倉さん、先に入ってください」

「ううん、森本くん、先に入って」

その日、何度目かの譲り合いになったけれど、夜も遅くなっていたのでボクは先に入らせてもらうことにした。

田之倉さんが入ったときに、垢が浮いていたりしては嫌だったので、結局ボクは湯船には浸からずに、シャワーだけで済ませてしまった。

「お先でした」

自分の家の風呂だけど、一応、そう言って田之倉さんに声を掛けた。

「大きいタオルと小さいタオルを出しておきました。それとパジャマは無いので、よかったらボクのTシャツを使ってください。一応、洗ったばかりなので」

そう言うと、田之倉さんはニッコリ笑って、小さく会釈をするようにして言った。

「お気遣い、ありがとう。有り難く使わせてもらうわ」

そう言って、脱衣所の滑り戸をゆっくりと閉じると、中から衣服を脱ぐ衣擦れの音が漏れてきた。

ボクは慌てて、テレビのある部屋に移ってニュースを見ていたが、お風呂場の方が気になって、何も頭の中に入ってこなかった。

小さくシャワーを流す音が、漏れ聞こえていた。

その時、再び大きな余震があった。

本震に次ぐくらいの大きな揺れだった。

脱衣所で何かが床に落ちる音が聞こえたかと思うと、バスタオルを身体に巻いた田之倉さんが飛び出してきた。

髪の毛を洗っていたらしいく、頭にはシャンプーの泡が残ったままだった。

「あぁ、びっくりしたぁ」

「田之倉さぁん、床がビショビショなんですけどぉ」

揺れが収まると、緊張を和らげようと冗談ぽく言ってみせた。

それを聞いた田之倉さんは、床とボクの顔を交互にに比べたので、ボクは思わず笑ってしまった。

「あの・・・、田之倉さん、見えてますけど・・・」

ボクの向かいで尻餅をついたようになっていた田之倉さんの股間から黒い茂みが少しだけ覗いていた。

「ちょっと、森本くん、どこを見てるの!」

田之倉さんは脱兎のごとく、風呂場へと戻っていくと、再びシャワーの音が聞こえ始めた。

その間に、ボクはソファベッドにシーツを敷いて、クッションに枕カバーをかけると田之倉さんがお風呂から出てくるのを待った。

随分長風呂だと思ったが、ボクのTシャツを着て、濡れた髪をタオルで拭きながら田之倉さんが漸く出てきた。

「あの、ベッドは向こうの方が広いんですけど、ボクがいつも使っているやつだから、田之倉さんはこっちで寝てください」

本当は広い方を田之倉さんに使わせてあげたかったのだけれど、ベッドにはボクの汗とか匂いが滲み込んでいる気がして、ソファベッドを使ってもらうことにした。

「森本くん、きっちりしているのね」

シーツと枕カバーが整えられているのを見て、田之倉さんは感心してみせてくれた。

それから暫くは、一緒にテレビのニュースを見続けていた。

お風呂のお湯を流そうとバスルームに足を運んだら、ピカピカに磨いてあった。

「田之倉さん、お風呂を洗ってくれたんですか?」

尋ねると、田之倉さんは片目をつぶって見せて言った。

「そんなの女の・た・し・な・み」

流石、社長秘書を務める人は違うと思った。

田之倉さんは綺麗すぎて、高嶺の花だと思っていたが、何だか親近感が沸いた。

立ち振る舞いを見ていてもボクなんかでは到底釣り合わない相手だと思っていた。

でも、家の中のこともきちんとできる庶民的な一面を知ることができて、ボクは不謹慎にもその状況にちょっとだけ感謝した。

その晩は、一時間おきに余震が続き、その度に目が覚めていたけれど、歩き疲れていたせいか、明け方にはぐっすりと眠り込んでいた。

台所から聞こえる物音で、翌朝、ボクは目を覚ました。

歩き通しで、最後に田之倉さんをおぶったせいか、身体中に筋肉痛が走った。

キッチンを覗いてみると、田之倉さんはもう服を着替えて朝食の支度をしてくれていた。

「あ、おはよう」

ボクの顔を見て笑顔を見せてくれた田之倉さんは、天使のようだった。

「ボクのお嫁さんが、こんな人だったらどんなに幸せだろう」

そんな妄想を頭の中で巡らせていた。

「冷蔵庫の中のものは、一応、捨てておいたから」

ボクが眠っている間に、田之倉さんは冷蔵庫の中を片付けて、ゴミまで出してくれたらしい。

尤も、あんな後でゴミ収集車が回ってくるのか、甚だ疑問ではあったのだけれど。

「角のスーパーがね、臨時で朝から店を開けてくれていたの」

田之倉さんは、台所で忙しく動きながら朝の街の様子を実況してくれた。

ふと、ソファベッドを見てみると、シーツと枕カバーが丁寧に畳んであって、その上にボクのTシャツが乗っていた。

何から何まで完璧だった。

けれども朝食を食べ終わったら、この夢のような時間も終わってしまうのかと思うと何だか寂しかった。

「できたよ」

お盆に載せたサンドイッチとサラダとコーヒーを持って、田之倉さんがいつの間にかボクの背後に立っていた。

「そこのテーブル、片付けてもらっていい?」

田之倉さんに言われて、ボクは手早くテーブルにスペースを作ると二人でソファベッドに腰掛けた。

「美味しい!」

今度は、ボクが素直にサンドイッチの出来栄えを評した。

「ホント?嬉しい!」

田之倉さんは、ボクが感想を漏らすまで、自分はサンドイッチに口をつけないで、ジッとボクの口元を見つめていた。

「これ、うちのお母さんの得意料理なの」

パンの間には薄切りにした鶏肉のようなものにジャムが塗ってあって、これが抜群の味のハーモニーを醸し出していた。

「このチキン、美味いですね」

そう言うと、それはチキンではなくて、ターキーだと田之倉さんは教えてくれた。

「サラダも食べてね」

ボクは、至福の時を感じていた。

朝食を終えて、一緒に食器を洗って片付けている時に、ボクは思わず訊いてしまった。

「田之倉さん、独り暮らしですか」

少し間があったのだけれど、田之倉さんは優しい目をして頷いた。

「今日も電車は運休が多いですし、土曜日ですから、もう少しここにいませんか」

「何て大胆なことを・・・」

言ってしまってから、自分でもちょっと後悔したけれど、田之倉さんの反応は、予期に反したものだった。

「森本くんは、いいの?」

「勿論ですよ!」

少し食い気味に答えたので、田之倉さんはぷっと噴き出して笑った。

お昼を過ぎたころ、田之倉さんは漸く社長と連絡が取れて、ボクも所長に家に帰っていることを告げた。

「営業の皆さんも技術の皆さんも無事だと笹倉部長から連絡があったそうよ」

笹倉部長と聞いて、いつもタオル地のハンカチで額の汗を拭っている禿げ親父の顔を思い出した。

髪の後退が著しく、最早どこまでが額で、どこからが頭なのか判別は難しかったけれど。

「森本くん、何をにやにやしているの?」

いぶかしげな表情で田之倉さんに尋ねられて、ボクはつい頭の中で想像していたことを告げると田之倉さんは笑ってくれた。

「森本くんって、面白いのね」

何でもない賛辞が田之倉さんからだと嬉しさが込み上げてきて、ボクは一層ニヤついてしまうのだった。

もともと休日で、不用意にでかけたりすることもできずに、ボクたちはその日、二人だけで一日を過ごした。

お蔭で、田之倉さんのことをもっといろいろ聞かせてもらった。

学生時代のこと、会社でのこと、家族のこと。

本当は、昔の彼氏の話とか一番気になっていたのだけれど、意気地なしのボクは聞けずに終わってしまった。

その日の午後は、会社の人との連絡がつき始めたので、安否確認に忙しかった。

「工場の香取くんと連絡がとれて、皆さん無事のようです」

田之倉さんが、社長に電話で報告をしているのが聞こえた。

同期で営業の倉木からもボクにLINEで連絡があった。

夕方になっても、田之倉さんが利用している電車の路線は止まっていて、不謹慎にもボクは神さまに感謝してしまった。

「今日も家には辿り着けそうにないわね。今日も泊めてもらえる?」

田之倉さんのその言葉を聞いたとき、ボクは天にも昇るほど嬉しくて、何度も頷いて見せた。

ボクはその晩も田之倉さんの手料理をご馳走になり、前日と同じようにボクがお風呂に入ってから田之倉さんが入った。

田之倉さんがお風呂に入っている間、ベッドに寝転がって雑誌を読んでいたら、寝室の戸口から覗くようにして田之倉さんが声をかけてきた。

「森本くん、こっちで寝てもいい?」

ソファベッドは寝心地が悪かったのだと早合点して、ボクは答えた。

「あ、いいですよ。ボクは向こうに行きますから」

そう言って、寝転がっていたところのシーツを伸ばす仕草をして、枕を手に持つと田之倉さんが続けた。

「そうじゃないの。余震がずっと続いていて、不安だからこっちで一緒に寝てもいいかな」

ボクは、自分の耳を疑った。

「田之倉さぁん、そんなこと言っちゃっていいんですか?ボクだって、いつオオカミに変身するか、わかりませんよ」

冗談めかして、そんな風に言ってみたものの、田之倉さんは平然と言った。

「人畜無害なんでしょ、オオカミさん」

そう言うと、すでに持参の枕をベッドにポンと投げるようにして、洗面所へと戻っていった。

それからのボクは、心臓がバクバクして口から飛び出しそうだった。

雑誌は開いているものの、何も頭の中に入ってこなかった。

田之倉さんがボクのぶかぶかのTシャツを着て、寝室に戻ってきた。

「電気、消していい?」

そう言われて頷くと、田之倉さんはパチンと部屋の電気を消すと、ベッドに入ってきた。

暗がりの中、田之倉さんがボクの隣で横になったのが、気配で分かった。

「真っ暗だと、ちょっと怖いわね」

田之倉さんはそう言うと、枕元に置いてあった懐中電灯を点けた。

「電池がもったいないけど、点けておいていい?」

「ええ、どうぞ」

ボクの隣に、田之倉さんのシルエットが浮かび上がっていた。

あまりの緊張に、ボクはどうにかなってしまいそうだった。

静かな呼吸の音に合わせて、シルエットになった田之倉さんの胸がゆっくりと上下に動いているのがわかったが、ボクは身動きできずにいた。

「ねぇ、森本くん」

静寂の中から、ふいに田之倉さんの声がした。

「はい」

「私のこと、好き?」

「えっ?あっ・・・、はい・・・、今日はいろいろありがとうございます」

何を言っているのだ、と自分でも嫌になったが、ボクはそんな返事しかできなかった。

「会社の先輩とか、そんなのじゃなくて、女として好き?」

王手、詰み。

そんな感じだった。

好きだと言ってしまってよいものか、迷ったけれど、清水の舞台から飛び降りるつもりで答えた。

「はい」

すると、仰向けになっていた田之倉さんは身体を捻ってボクの方に向けると言った。

「私、ズルいわよね」

「えっ?」

何のことを言っているのか、皆目見当がつかなかった。

「昨日と今日、森本くんとずっと一緒に居させてもらって、好意を寄せてもらっているのは十分わかっているのに、聞いちゃった」

自信満々だと思っていた田之倉さんでもそんな風に思うのかと少し意外だったが黙っていた。

ボクが黙っていると、田之倉さんは続けた。

「ちょっと臆病になっているのかな」

「えっ?」

「私、若いころにね・・・」

「今だって、十分若いですよ」

何か真剣な話になりそうだったので、思わず話を混ぜっ返してしまった。

けれども、田之倉さんはそれをスルーすると続けた。

「若いころに、すごく好きな人がいたの」

そう言う人がいて当然だと思っていたけれど、田之倉さんの口からきくと、何だか心がヒリヒリした。

それでも、黙って話に耳を傾けていると、田之倉さんは続けた。

「別れて何年も経つんだけど、そのころは大好きだった」

ボクは固唾を呑んで、聞き続けるしかなかった。

「でも結局、ふられちゃった」

最後は少し自嘲気味なトーンになっていた。

「だから、男の人は、もういいかなって・・・、そう思い込もうとしてたのかな・・・」

そう言ったところで、田之倉さんがボクの方に視線を戻したので、まともに目が合ってしまった。

「私ね、森本くんのこと、ずっと見てたよ」

「ずっとって?」

「森本くんがうちの面接を受けに来た時から」

実をいうと、田之倉さんのことは、ボクも初めて面接に訪れたときから見かけて印象に残っていた。

面接の順番で、名前を呼ばれたときに返事をしたら、バッチリ目が合ってしまって、ドギマギしたのを覚えている。

二次面接のときも、三次面接のときも、それから最終面接のときも、ボクの名前を呼んでくれたのは田之倉さんだった。

その時のことを話すと、田之倉さんは少しはにかんで見せた。

「覚えていてくれたんだ、私のこと。嬉しいな」

「でも、田之倉さんは、人事部でもないのに、ずっと面接のお手伝いをしていたんですか?」

「そんなことないわよ」

「じゃあ、あれだけの面接で毎回会えたのって、凄い偶然ですよね」

そう言うと、田之倉さんの返事がそこで急に途切れた。

暫く続いた沈黙を破って、田之倉さんの声がした。

「あれって、偶然だと思う?」

「えっ?」

「私が森本君の名前を呼んだの」

「偶然じゃないんですか?」

「人事部から面接の日程を取り寄せて、森本くんが来る日だけ、お手伝いをさせてもらっていたの」

田之倉さんは悪戯っぽく舌を出して見せた。

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